プロダクト開発において、解決すべき適切な課題を見極め、それに最適な解決策を見つけることは複雑であり、多くの困難を伴います。チームは、顧客やユーザーにとって最も価値のある製品や機能について、考えられる解決策や仮説を簡単に思いつくことができます。しかし、それらが検証されるまでは、それは単なる仮定に過ぎません。
製品開発の不確実性と複雑性に対処する際、多くのチームが次の2つの落とし穴に陥りがちです:
- 早すぎる開発への突入
一部のチームは、リスクや投資の無駄を軽視して、問題や解決策の範囲を十分に理解しないまま開発に取り掛かります。これは、無駄な投資の原因となります。 - 時代遅れで高コスト・時間のかかる手法の使用
他のチームはリサーチや仮説の検証の重要性を認識していますが、古くて遅く、コストのかかる手法に頼ってしまいます。これにより「分析麻痺」に陥り、市場投入までの時間が長引きます。開発が完了する頃には、市場機会が完全に消えてしまったり、数ヶ月前に入念に設計したものが既に時代遅れになっていることもあります。
チームが意思決定を行う際に役立つツールの一つが、トゥルース・カーブ(真実曲線)です。
トゥルース・カーブを使った意思決定
トゥルース・カーブは、仮説がプロダクトの成功にとってどれだけ重要かに基づいて、実験に費やす時間とリソースを判断するためのフレームワークです。カーブの左側には、軽量な実験(例:アンケート、ユーザーインタビュー)が最も効果的な初期段階のアイデアが位置します。仮説が開発に近づくにつれて、プロトタイプやユーザビリティテストといったより堅実な手法が求められます。トゥルース・カーブを活用することで、チームは各段階で行うべき実験の種類と、それに相応しい投資規模について、より良い判断ができるようになります
課題と解決策の発見および検証に役立つ手法
課題と解決策を発見し、検証するために役立つ手法には、以下のようなものがあります:
- ユーザーインタビューとアンケート:ユーザーのニーズや好みに関する質的・量的な洞察を得るのに理想的です。
- ユーザー観察:現実の状況でユーザーの行動を観察し、問題点や意外な行動を発見します。
- フィーチャーフェイク:新しい機能に対するユーザーの興味を、開発前にシミュレートして低コストで測定する方法です。
- コンシェルジュ型MVP:自動化する前に、手作業でサービスを提供して需要を検証します。
- プロトタイプ:インタラクティブなプロトタイプを構築し、開発に入る前にユーザビリティや機能性をテストします。
- 競合分析:既存の市場ソリューションを分析し、ギャップやチャンスを特定します。
- ユーザビリティテスト:プロトタイプを使用してユーザー体験をテストし、使いやすさの問題を発見し、解決策を洗練します。
- 早期アクセスプログラム:開発中のためまだ公開されていないプロダクトや機能などを、希望するユーザーや顧客に提供して使用してもらう制度です。
これらのテクニックを活用することで、チームはリスクの低いデータ駆動の意思決定を行い、さらなる投資を行う前に段階的にアイデアを検証することができます。これらのテクニックをうまく使えば、多くの場合、数時間、数日、あるいは長くても数週間しかかかりません。
個人的な経験からの具体例
例1:鉱業向けプラットフォームの構築
私たちのチームは鉱業向けのデータ分析プラットフォームの構築に取り掛かり、リソース配分から機器メンテナンスまで最適化することを目指していました。クライアントからの初期関心は高かったものの、技術的な実現可能性やコストには多くの不確実性がありました。
- クライアントは必要なデータを十分に提供できるか?
- 現在のシステムと統合する難易度はどれくらいか?
- 私たちのソリューションは既存のシステムに対して大幅な性能向上をもたらすか?そのコストはどの程度か?
実施したこと:私たちはこれらの不確実性を明確にし、2社のクライアントと協力して特定のニーズやシステム要件に基づいて製品を共同開発することにしました。チームは2つに分かれ、2社のクライアントと並行して、海外の現場で作業を行いました。データ品質とシステム互換性に関する主要な仮説を検証するために、現場で「データデューデリジェンス」を実施しました。このパートナーシップにより、チームは迅速に実現可能性を検証し、リスクを事前に特定しながらソリューションを繰り返し改善することができました。
例2:若年層向け保険商品のターゲティング
もう一つのプロジェクトでは、保険商品を20代後半から30代前半のクライアントに売り込むことを目指しました。この年代の顧客層の市場シェアにギャップがあると認識し、販売・マーケティングチャネルをデジタル化し、いくつかの新機能を追加することで、このセグメントを獲得できると仮定しました。
実施したこと:チームが考えた機能をプロトタイプ化し、販売体験を再設計しました。6人の潜在顧客を募集して「ユーザビリティテスト」を実施し、マーケティング資料の閲覧からファイナンシャルプランナーとの実際の面談予約まで、ほぼ全プロセスを体験してもらいました。この実験により、有効でないアイデアを排除し、アプローチを洗練し、その市場セグメントの顧客に響く機能を優先順位付けするための実用的な洞察を得ることができました。プロトタイピング、ユーザーの募集、ユーザビリティテストの実施を含む、この実験全体はわずか2週間で完了しました。
コンテキストの重要性:状況に応じた実験の調整
効果的な実験を活用することで、プロダクト開発チームは成功の可能性を大幅に高めることができます。適切な課題を、適切な解決策で解決するための鍵は、状況に応じた実験の選択です。トゥルース・カーブは意思決定のフレームワークを提供し、チーム全体を巻き込むことで、より良い選択と調整、そしてオーナーシップを促進します。
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著者について
グレゴリ・フォンテーヌは、Scrum.orgの約350名のプロフェッショナルスクラムトレーナー™(PST)の一人で、合同会社AgoraxのCEOです。ソフトウエア開発だけでなく、さまざまな分野でスクラムを適用してきた長年の経験を持ち、日本語を話せる唯一のPSTとして、長年にわたり日本のクライアントや受講生をサポートしてきました。さらに詳しい情報は、グレゴリのクラススケジュールやAgoraxのウェブサイトをご覧ください。