読者の皆様、
Scrum.orgのプロフェッショナルスクラムトレーナー(Professional Scrum Trainer・PST)をしております、グレゴリ・フォンテーヌと申します。このブログでは、今後シリーズとして、海外のPSTが投稿した英文ブログの中から、質が高く日本の読者の皆様に関連性の高い記事の日本語翻訳版をご紹介していく予定です。このシリーズのブログ記事の全リストをご覧になりたい方はAgorax.jpのホームページから見ることができます。また、すべてのブログ記事には、私自身の短いコメントを添えております。
はじめに
プロダクトオーナーの責任をめぐっては、多くの混乱があります。企業によっては、プロダクトオーナーを「オーダーテイカー(発注を受ける人)」としか見ませんが、スクラムでは、プロダクトオーナーは、プロダクトビジョンからプロダクトバックログのアイテムの順番まで、すべてを決定するために必要な権限、信頼、ビジネスセンスを持った真のリーダーであると考えます。この記事の中で、私の仲間のPSTであるロビン・シューマン氏は、プロダクトオーナーの成熟度を5段階に分けて説明しています。私は2つの理由で、このプロダクトオーナーの成熟度は大変有益であると考えています。第一に、個々のプロダクトオーナーが、自身の現状・なりたい姿・今後ステップアップするために足りない部分など自己評価をするために使うことができます。第二に、スクラムを導入する組織は、プロダクトオーナーがチーム外からのオーダーを取ることだけ専念しないよう、現在プロダクトオーナーやチームにどの程度の決定権を与えられているか(あるいは与えるべきか)について議論をするために使うことができます。素晴らしい記事ですのでぜひご一読ください。
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著者:ロビン・シューマン
英語版:Growing as a Product Owner: Five Product Owner Maturity-Levels
プロダクトオーナーの役割は、組織においてさまざまな方法で実行されます。プロダクトオーナーの責任と権限は、組織、部門、チーム、プロダクトオーナーによって異なります。プロダクトオーナーに任命された人はプロダクトオーナーの役割に見合った成長を求められるため、こうした違いが発生するのは、ある程度説明がつきます。そしてプロダクトオーナーの役割には、特定の能力やマインドセットが必要です。さらに、多くの組織にとって、プロダクトオーナーは新しく未知の役割であり、人々(通常は経営陣)は責任と権限の適切なバランスを見つけようとしています。望ましいのは、プロダクトオーナーが多くの権限を持ち、製品の最終的な意思決定者であることです。しかし、多くの組織では(まだ)そうではありません。
組織におけるプロダクトオーナーシップのレベルを明確にするために、私たちはプロダクトオーナーを5つのタイプに分類しています:
- スクライブ (書記) レベル
- プロキシ (代理人) レベル
- ビジネス レプレゼンタティブ(ビジネスの担当者) レベル
- スポンサー (スポンサー) レベル
- アントレプレナー (起業家) レベル
この図は、異なるタイプのプロダクトオーナーを視覚的に示しています。この図では、プロダクトオーナーの権限(または成熟度)に基づいて、達成できると期待されるベネフィットがわかります。「スクライブ (書記) レベル」には責任と権限がほとんどなく、「アントレプレナー(起業家) レベル」には多くの責任と権限があります。
この図は、私たちが組織でよく目にするプロダクトオーナーの成長過程を示しています。プロダクトオーナーはその権限において成長し、成長する事でプロダクトオーナーが製品、組織、顧客に対して果たす役割の付加価値が高まります。より成熟したプロダクトオーナーがいることで、組織はスクラムを適用するメリットをより多く経験できるようになり、価値提供は通常より良い方向に向かいます。次のセクションでは、さまざまなタイプのプロダクトオーナーについて詳しく説明し、そしてこれをお読みの皆さんがプロダクトオーナーとして、ご自身の権限内で一歩を踏み出せるかについて説明します。
スクライブ(書記)レベルのプロダクトオーナー📝
スクラムを始めたばかりの組織や、アジャイルマインドセットを完全に受け入れていない組織(従ってスクラムを適切に適用していない組織)もおいては、この「スクライブ」、つまり書記のような役割を果たすプロダクトオーナーがよく見られます。 このような組織では、プロダクトオーナーは主にプロダクトバックログを管理し、ステークホルダーからの要望を収集し、それを開発チームのためのユーザーストーリーに変換する人だと考えられています。このタイプのプロダクトオーナーの権限は、多くの場合、全く無いか非常に限定的です。このプロダクトオーナーは主に、ステークホルダーの要望が開発チームにとって理解しやすい言葉に落とし込まれるよう働きかけます。 こうしたプロダクトオーナーが非常に多い組織では、ビジネスアナリストや仕様を開発するエンジニアがプロダクトオーナーに任命されることがよくあります。また、このような状況では、ステアリングコミッティー(以下、ステコミ)やプロジェクトマネジメントオフィス(PMO)など、他の誰かに権限を委譲することがよくあります。
プロキシ(代理人)レベルのプロダクトオーナー📬
スクライブレベルのプロダクトオーナーと同様に、プロキシ(書記)レベルのプロダクトオーナーも、アジャイルな仕事の進め方やスクラムフレームワークを採用し始めた頃の組織でよく見かけます。プロキシは、スクライブよりもいくつかの権限を持っています。例えば、プロキシは、プロダクトバックログの順序を(限定的に)選択する権限も持っています。しかし、ビジョン、ビジネスゴール、望ましい成果/結果やスコープは、ステコミ・プロジェクトスポンサー・ビジネスオーナーなどの他の人々によって決定されます。多くの組織で、以前はプロジェクトマネージャーやチームリーダーのポジションにいたプロキシ・プロダクトオーナーに出会います。このような役割や立場の人は、通常、プロジェクトを成功に導く責任をすでに負っています。そのため、多くの組織では、このような人々の役割を「プロダクトオーナー」に変更することは論理的であるように思われます。しかし、プロキシレベルのプロダクトオーナーは最終的な意思決定者ではありません。彼らが何かを変更する際には、別の人の承認を求めなければなりません。優先順位を変更するにも、計画、ロードマップ、プロダクトバックログの変更を希望する時にも誰か然るべき人の承認を求めなければなりません。
ビジネス レプレゼンタティブ(ビジネスの担当者) レベルのプロダクトオーナー💼
次のタイプは、ビジネスレプレゼンタティブ(ビジネスの担当者)レベルです。この人物は通常、組織のビジネス側の代表者であり、ビジネスの背景、市場、顧客、ユーザーをよく知っています。そのため、通常は顧客やユーザーが何を必要としているか、あるいは何を望んでいるかを自らの経験から知っています。 こうした人物は通常、組織の中の「シニア」や「専門家」の一人であり、顧客やユーザーとつながりがあります。また、このタイプのプロダクトオーナーは、プロセスオーナーやシステムオーナーのような人である可能性もあります。「ビジネスの担当者」という用語は、このタイプのプロダクトオーナーが「ビジネス」出身であることを示唆していますが、必ずしもそうではありません。成熟度としては「ビジネスの担当者レベル」であるIT部門の誰かが、プロダクトオーナーの役割を担っているのもしれません。この役割につくIT担当者の例としては、情報管理者、アーキテクト、セキュリティの専門家などが考えられます。
このような人は、(技術的な)製品に関する多くの知識を得ている可能性があるため、プロダクトオーナーに適しています。IT出身のプロダクトオーナーという点で考えると、ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブズも優れたプロダクトオーナーでしたし、本当に“真のIT出身の人でした。
ビジネス レプレゼンタティブレベルのプロダクトオーナーは、プロキシタイプよりも多くの権限を持っています。ビジネスレプレゼンタティブは通常、プロダクトの一部、システム、または(一連の)プロセスを担当します。
このシステムまたはプロセスの中で、このプロダクトオーナーは、開発チームによって実行される作業を自分で決定することができます。従って、ビジネスレプレゼンタティブはプロダクトバックログの責任者であり、プロダクトバックログを自分で管理する権限を持っています。 ただし、これは、マネージャー層やステコミなどから割り当てられた予算内で対応ができる場合に限ります。ビジネスレプレゼンタティブは、自分の予算を好きなように使えるわけではありません。予算の変更には承認を得る必要があるため、多くの場合、ステコミやマネージャーとやり取りをしなければなりません。 また、ビジネスレプレゼンタティブは通常、誰か他の人が定義したやるべき仕事、実行すべきプロジェクト、達成すべき目標、などのリストを持っています。
スポンサーレベルのプロダクトオーナー💰
スポンサーレベルのプロダクトオーナーは、ビジネスレプレゼンタティブブ レベルのプロダクト オーナーとは違い、独自の予算を持っています。予算以外では両方のタイプのプロダクトオーナーの権限はかなり似ています。「スポンサー」タイプのプロダクトオーナーに当初任命されるのは、ビジネスマネージャー、ITマネージャー、顧客(B to Bの場合)などである場合があります。スポンサータイプのプロダクトオーナーは独自の予算を持っているため、開発チームをアップスケールしたりダウンスケールしたりする機会も多くなります。しかし、これは、スプリントごとに人を増やしたり減らしたりすべきという意味ではありませんのでご注意ください!どういう意味かと言うと、プロダクトの大成功によりプロダクトオーナーが第2、第3のチームへの規模拡大を望むこともあるという事です。このような柔軟性と権限を持つことで、「スポンサー」レベルのプロダクトオーナーは開発を加速したり遅らせたりすることができるため、製品の投資対効果と総所有コストに大きな影響を与えることができます。また予算権限の他に、スポンサー・プロダクトオーナーは「何を」を達成すべきか、についても大きな発言力を持ちます。つまり実行すべき作業、実行すべきプロジェクト、または達成すべきビジネス目標を定義することができるのです。
アントレプレナー(起業家)レベルのプロダクトオーナー🚀
プロダクトオーナーの最後のタイプは「アントレプレナー(起業家)」です。このタイプは「ミニCEO」とも呼ばれます。最終的に組織として達成を目指すべきプロダクトオーナーシップの姿とは、正にこのタイプであり、このタイプのプロダクトオーナーは、顧客、ユーザー、そして組織に対して、圧倒的に大きな影響を発揮する事ができます。アントレプレナー・プロダクトオーナーは、製品に対して全責任を負い、製品に対する全権限も持ちます。
そしてアントレプレナー・プロダクトオーナーは、市場、顧客、製品に関する強いビジョンを持つ人です。製品への情熱を持ち、強いリーダーシップとコミュニケーションスキルを持つ人です。アントレプレナー・プロダクトオーナーは、製品の最終的な責任者であり、そのため損益の責任を負います。製品開発だけでなく、メンテナンス、オペレーション、マーケティング、法的側面、営業も担当します。一般的にこのレベルを「ミニCEO」と呼ぶのはそのためです。自分の「ミニ会社」(大企業内のミニ会社の場合も含まれます)を持つプロダクトオーナーです。
プロダクトオーナーの責任と権限を伸ばす
つまり、プロダクトオーナーは成熟度に応じて5つのタイプにわけることができ、それぞれが独自の焦点、主要な責任、権限を持っています。この成長モデルを適用すると、自分がどのタイプのプロダクトオーナーなのか自分で見極めることができますし、また、ある組織内にどういうタイプのプロダクトオーナーがいるか推定することができます。 この際、組織内の(階層的な)職務は、その人がどのタイプのプロダクトオーナーであるかを部分的にしか決定しないことを覚えておいてください。プロダクトオーナーが以前は管理職であった場合、その人はすでに何らかの権限を持っている可能性があります。管理職経験があることは、プロダクトオーナーとして成熟度モデルに沿ってより早く成長することに繋がることになるかもしれませんが、しかしながら管理職経験があることがプロダクトオーナーとして成長するための必須要件ではありません!プロダクトオーナーが持つ権限は、(以前の)職務によってのみ決定されるわけではありません。プロダクトオーナーとしての権限は主にプロダクトオーナー自身の行動によって決まります。つまりプロダクトオーナー自身の振る舞いによるところが大きいのです。私たちの経験では、権限は "タダ "で与えられるものではありません。より多くの権限を得るには、獲得する必要があります。そして、より多くの権限を得る方法は、より多くの責任を負い、オーナーシップを示すことです。
しかし、プロダクトオーナーとしてより多くの責任を負うにはどうすればよいのでしょうか? 実はそれはとても簡単なことです。プロダクトの成功に対してより多くのオーナーシップと責任を持つことで、一歩ずつ自分の責任を増やしていくのです。例えば、プロダクトビジョンを策定し、チーム、ステークホルダー、経営陣の間で積極的に推進します。主要なステークホルダーと積極的に協力しましょう。あなたやあなたのチームが、顧客やユーザーのためにどのように価値を高めているかを示しましょう。価値を測定可能にすること、また、コストについても明確にしてください。これらのトピックについて透明性を確保し、あなたがプロダクトに責任を負っていることを示しましょう。誰かがやってくれるまで待つのではなく、積極的に行動してください。主体的に行動しましょう。そうすることで、自分自身で物事を決定する余地が生まれ、より多くの権限を得ることができます。私たちがこれまでに出会ってきた、成功しているプロダクトオーナーは、責任を取っています。多くの場合、これらのプロダクトオーナーは、最初はスクライブ(書記)やプロキシ(代理人)としてスタートしました。しかしながら、彼らの多くは、スポンサーやアントレプレナー(起業家)に成長しました。
「プロダクトオーナー」という言葉は、スクラムの考案者が単に役割にたいして「名前が必要だったから」作ったものではありません。この役割名には、「オーナー」という言葉が含まれています。つまり、このプロダクトオーナーの役割はプロダクトを「所有」することであり、プロダクトを所有することで生じる責任を取ることなのです。したがって、オーナーシップとは、まさにあなたがステークホルダーに示さなければならないものなのです。この時示すべきはプロダクトビジョン、プロダクトバックログ、財務的側面に対するオーナーシップだけではありません。あなたの態度、考え方、行動も示すべきものの一環であるのです。定期的に自分を振り返ることが助けになるかもしれません。自分の目を見てください。プロダクトを改善するために、本当にできることはすべてやりましたか?挫折の原因は他者にあるのか、それとも別の方法で何かできたのか。オーナーシップを持ちましょう!
このブログが、プロダクトオーナーの成長の道筋と、プロダクトオーナーとしての責任と権限を高めるために読者の皆さんが取れるステップについて、少しでも理解を深める一助になれば幸いです。もちろん、できることはもっとたくさんありますが、私はこれをお読みの皆さんご自身の経験についても興味があります!あなたはどのようなタイプのプロダクトオーナーですか?どのようなステップを踏んで成長しましたか?プロダクトオーナーとしての次のステップは何ですか?
お読みいただきありがとうございました!