読者の皆様、
Scrum.orgのプロフェッショナルスクラムトレーナー(Professional Scrum Trainer・PST)をしております、グレゴリー・フォンテーヌと申します。このブログでは、今後シリーズとして、海外のPSTが投稿した英文ブログの中から、質が高く日本の読者の皆様に関連性の高い記事の日本語翻訳版をご紹介していく予定です。このシリーズのブログ記事の全リストをご覧になりたい方はAgorax.jpのホームページから見ることができます。また、すべてのブログ記事には、私自身の短いコメントを添えております。
はじめに
スクラムチームは自己管理型組織です。つまり、誰が、いつ、何を、どのように行うかについて、多くの決定を自分たちで行います。対照的に、従来型のチームでは、ほとんどの意思決定は特定の人(通常、マネージャー、プロジェクトリーダー、アーキテクトなど)によって行われます。自己管理型組織の利点は非常に大きく、集合知を活用し、より良い解決策を導き出せること、チームの結束力が高まること、チームメンバーのスキルが向上すること、オーナーシップが強化されることなどが挙げられます。
しかし、意思決定のスピードはどうでしょうか?私は以前、意思決定のスピードも自己管理型チームが従来のマネージャー主導のチームよりも優れている点だと考えていました。しかし、様々なチームと仕事をすればするほど、相反する例を見つけることが多くなります。特に、コンセンサス主導の意思決定を重視する日本の文化は、諸刃の剣となり得ます。両方の長所を生かすためには、スクラムチームは、協調性を維持しながらも時間効率の良い意思決定をサポートする手法の習得と実践に努めることが重要だと私は考えています。この記事でグラウディアは、私が自分のチームでよく使い、強力な効果があると思う手法の一部を紹介しています。
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著者:クラウディア・カリファノ
英語版:Five Ways to Build Consensus
スクラムマスターの道を歩み始めた当初、私が苦労したことの一つは、チーム内の合意形成でした。客観的であり続けたい、みんなに余裕と時間を与えたい、その一方で決定を渇望することは、私にとって挑戦でした。私自身の優柔不断さが、最終的に一緒に仕事をするチームに良い影響を与えませんでした。そのうちに、合意形成に役立つ有用なテクニックはすでにたくさんあり、いつ、どのように使うかは、そのときの状況や文脈によって異なることを学びました。ここでは、ファシリテーターとして役に立ったものをいくつか紹介します。
① 1-2-4-All
私がLiberating Structuresの1-2-4-Allを好んで使っている理由は、ファシリテーターとして、グループの人数に関係なく、全員にアイデアを出させることができ、なおかつ個々に裁量を与えることができるからです。1-2-4-Allの発散と収束の側面は、グループ思考を避けるのに適しています。
やり方
グループが解決しようとしている問題について、共通の理解があることを確認します。理想的なのは、問題を質問として組み立てることです。私が個人的に好きなのは、「How Might We」形式を使う方法です。
- ラウンド1 - 1分
それぞれ一人でその問いについて考えます。 - 第2ラウンド 2分
2人1組になり、最初のラウンドで出たアイデアを基にアイデアを出します。 - 第3ラウンド 4分
第2ラウンドで集めた選択肢やアイデアを共有し、4人組でそれを基に話し合いをします。 - 第4ラウンド 5分
各グループよりグループディスカッションにおいて話し合った、突出した重要なアイデアを1つ発表しあい、全員で共有します。
② Thirty-Five (サーティーファイブ)
私がサーティーファイブゲームを知ったのは、ゲームストーミングのウェブサイトでデイブ・グレイ氏の記事を見たときでした。このゲームは、大人数のグループでもすぐにコンセンサスを得られるところが気に入っています。このゲームは、人がシステムを誤魔化したり、結果に影響を与えたりできないように設計されています。
私がサーティーファイブを使った例としては、製品の新しいアイデアのどれを進めるかについてスクラムチームで合意形成をしようとしたケースです。
やり方
- チームには、ブレインストーミング・セッションから生まれたさまざまなアイデアのリストがあります。各アイデアは個別のカードに書かれているため、たくさんのカードから選ぶことができます。
- 一人ずつ、自分が一番いいと思うアイデアのカードを選んでいきます。自分が一番良いと思うものを他の人が既に選んでいたら、自分が二番目にいいと思うものを選ぶ、というようにします。全員がカードを持ったら、ゲームを始めることができます。
- 2人1組になり、2枚のカード/アイデアの7点をどう分けるかを決め、それぞれのカードの裏に点数を記入します。
- ペアはカードを交換したら、別の誰かとペアを組む、というのを合計5ラウンド繰り返し、各自が他の人と協力して35点を配分します。
- 第5ラウンドの終わりに、各カードの裏の点数を合計します。
- 点数の高いカードやアイデアを上に並べ替えます。
③ Buy a feature (バイアフィーチャー)
Buy a featureとは、主にグループ共同で優先順位づけをするための方法ですが、同時にグループでコンセンサスを得るための優れた方法としても活用できます。
Buy a featureは、ルーク・ホフマン氏によって考案されたイノベーションゲームで、チームメンバー、ステークホルダー、ユーザーなどの「プレーヤー」にプレイマネーを渡し、欲しい機能を「買う」ために集まります。このゲームの賢いところは、アイテムの中には、一人が単独で機能を購入できないような価格が設定されているものがあり、グループが最も欲しい機能に合意するために互いに交渉する必要があることです。
やり方
- 選択可能なオプション(選択肢)のリストを提示します。
- 各オプションに価格が設定されていることを確認します。この価格は、見積もり開発コスト、想定顧客価値、その他のどのようなものでも設定することができます。
- 4~7人のプレーヤーを招待してグループを形成します。ステークホルダーでも、製品の実際の潜在ユーザーでもかまいません。改善アクションを購入するために使用する場合は、チームメンバーになります。
- 各プレイヤーはいくらかのプレイマネーを受け取りますが、多すぎないようにします。オプションは、一人のプレイヤーだけでは買えないような高い値段にすべきですし、すべてのオプションがグループ全体で支払えるわけではありません。
- プレーヤーが交渉し、お金を出し合ってオプションを購入する様子を観察してください。
④ ドット投票
ドット投票は、チームのコンセンサスを得たり評価したりするための最も迅速な方法の1つです。
ドット投票は、たくさんの選択肢から幾つかの選択肢を選びたいときに使用できます。
私がファシリテーターとしてドット投票を使う例は、スプリントレトロスペクティブで、チームとして、次にどの改善アクションに取り組むかについてコンセンサスを取る必要がある場合などです。
やり方
- レトロスペクティブアクションのリストが一箇所に集約され、皆に見えるようにします。壁、テーブル、(仮想)ボードなど。さまざまな選択肢の意味を全員が理解したら、いよいよ投票です。
- 各チームメンバーには、同じ数のドット票が与えられます。3票から5票の場合もありますが、各メンバーが持つ票数は、投票に必要なレトロスペクティブアクションの数の半分以下であるべきです。
- 各メンバーは最も影響が大きいと思われるレトロスペクティブアクションにドット票を配置して投票します。この時もしも非常に強くそうすべきだと思うなら、付与されたドット票をすべて 1 つのレトロスペクティブアクションに投票することも可能ですし、または複数のアクションに分散して投票することもできます。
- 全員がドット票を配置したら投票は終了し、結果を評価する時間になります。
- スクラムチームは、最も多くの票を集めたアクションを、近い将来、あるいは次のスプリントで取り組むアクションとすることに同意します。
このドット投票に素敵なひねりが加えられたバージョンとして私が紹介を受けたのは、ゲルジョン・ゾマー氏のリーン・ストーリー・デザインです。このバージョンでは、チームメンバーはドット票を使わず、代わりに自分の好きな選択肢に付箋を貼り、なぜそれが好きなのかを簡潔に説明します。
⑤ Fist of Five(フィスト・オブ・ファイブ)
Fist of fiveは、ファシリテーターとして同意の幅を測るのに役立ち、なおかつ共同決定を可能にします。私がFist of fiveを使うのは、複数の選択肢から選ぶドット投票を活用する場合とは対照的に、一つの選択肢に関して合意形成が必要な場合です。
例えば、私がファシリテーターとして実際にFist of fiveを使う例を挙げると、何か一つのアイディアや提案に関してスクラムチームとして合意するか否かを決定する場合です。このアイディア/提案は先に進めるべきか?改良すべきか?それとも、このアイディア/提案を却下すべきか?という事を決定する際にFist of Fiveを活用します。
やり方
- チームが投票するアイデアや提案について、共通の理解を持つようにします。
- 必要なコンセンサスの度合いに合意します。どの程度強いコンセンサスが必要かは、文脈によって異なります。たとえば、スクラムチームの全員に大きな影響を与えるアイデアについて投票を行うのであれば、全員が少なくとも4本の指を立てる必要があることに合意できます。しかし、他の多くのケースでは、スクラムチームは、少なくとも3本の指による投票が過半数を占めれば、決定がなされたとみなすことができます。
- チームがどの程度強いコンセンサスを得るべきかについて合意したら、投票を行います。チームは選択肢について議論し、準備ができたら、(通常は)3つ数えたら、各メンバーが自分の票(指1本から5本)を示します。
o 5本指: 素晴らしいアイデア!やりましょう!
o 指4本: いいアイデア!支持します。
o 指3本: 迷っています。良くも悪くもないと思います。
o 指2本: このアイデアは好きではありません。 - 結果を確認します。チームがコンセンサスに達した場合は、1ラウンドの投票だけで済みます。チームの意見がまとまらなかった場合は、話し合ってアイデアを練り直し、再度投票することができます。
結論
私が発見したように、チームの合意形成を助ける方法はたくさんありますが、どれを活用するかは文脈によります。皆さんは他にどのような合意形成の方法論を使ったことがありますか?